ー記者マツモト、槍を投げる! ~10本インタビュー 第10章~
ヤリナゲインタビュー 小澤健雄さん
(劇)ヤリナゲ インタビュー
ー記者マツモト、槍を投げる! ~10本インタビュー 第10章~
10本インタビュー第10章は、小澤健雄氏(照明家)です。
小澤健雄氏(照明家) プロフィール
小澤 健雄(おざわたけお)
1988年大阪生まれ。国際基督教大学で教育学を学び、在学中は舞台芸術に熱中。照明のほか、舞台監督や制作として、演劇・ミュージカル・パフォーマンスなど、多数の公演に携わる。卒業後、新国立劇場でアルバイトをしながら、教育関連企業に従事。経験を活かした教育を求めて、親子向けの探究教育tanQfamily(http://www.tanqfamily.com/)の運営に参加。HPのスタッフ紹介では、「いつもニコニコ愛されキャラだが、落語や将棋が好きすぎて流行りには無頓着なのがたまにキズ。 趣味は痩せないダイエット。」とつづられている。
第1回公演『八木さん、ドーナッツをください。』(2012年1月11日‐12日 於 国際基督教大学ディッフェンドルファー記念館 西棟多目的ホール)
第3回公演『緑茶すずしい太郎の冒険』(2014年3月21日‐23日 於 荻窪小劇場)
第4回公演『非在』(2014年6月3日‐4日 於 王子小劇場)
第5回公演『スーサイド・イズ・ペインレス』(2015年3月25日‐29日 於 王子小劇場)
第7回公演『緑茶すずしい太郎の冒険』(再演)(2016年3月24日-28日 於 王子小劇場)
第9回公演『モニカの話』(2017年1月18日-1月22日 於 STスポット)
では照明として、
第6回公演 『2 0 6』(2015年8月12日‐16日 於 王子小劇場)では舞台監督として、長くヤリナゲに携わる。
ー小澤さんの自己紹介と、小澤さんがヤリナゲ、越さんと出会ったきっかけについてお聞かせください。
小澤 越との関わりで言うと、大学の先輩後輩という関係です。私が越の二つ上になります。大学に入った時にはなりゆきでジャグリングのサークルに入っていたんです。
ージャグリングですか!
小澤 それで大学二年の春に学内の劇場でパフォーマンスをやるためにICU内の「照明委員会」なるものに各サークルから人員を供出しなければならなくなって、私が行ったんです。いろんなサークルから少しずつ人を出して、舞台の照明を賄うんです。
ーいろんな方のお話に出て来るあの「照明委員会」ですね!
フレッシュでピュアな新入生越君
小澤 照明委員会では学内の劇場の照明機材も無料で使い放題で、劇場も2週間くらい贅沢に使えました。古いんですけどキャパも200人強あって、昔オーケストラピットだった空間があったり、バトンを下ろすための綱も手引きというような劇場でした。そこで照明のことをいろいろ勉強する内にずぶずぶっと裏方の世界にはまり込んだという感じですね。その照明委員会では主に学内のミュージカルやダンスの照明をやっていました。
そうこうしているうちにICUに黄河砂という劇団があるんですけど、そこの新入生歓迎公演に越君が出演した時に私が照明をやっていて、その時に初めて会いました。大学の教室での公演だったので普通のダウンライトを使いながらやっていたんですけども。あの頃は越君もかなりフレッシュな感じでしたね。
越君にどんな印象を持ってますか?
ーなんでしょう、ざっくり言うとなんだか変わった人なのかな、と思います!
小澤 なるほど(笑)。私が大学で出会った最初の頃は意外とそうでもなくて、高校演劇をずっとやっていたピュアな子かな?という印象でした。
ーそうなんですか(笑)。
小澤 その新入生歓迎公演では私の一つ上の先輩が演出をやっていて、恩田陸の『常野物語』という小説を題材にしたお芝居の主役を越君がやってました。その時は「僕たちは、光の子供だ!!」みたいなフレッシュな演技をしているイメージでしたね。
ーなるほど!
小澤 可愛らしかったなあ、とは思っていましたね(笑)。その後夏休みを挟んで、学祭の時に越君が講堂の踊り場で演劇の出し物をやりたいと言うので、彼の同期の永澤洋っていう『八木さん、ドーナッツをください。』(第1回公演 2012年1月11日-12日 於 国際基督教大学ディッフェンドルファー記念館 西棟多目的ホール)の出演者と一緒にしょうもないコントみたいなことをやっていて(笑)。そこで照明を担当しました。この時に今もヤリナゲの音響を担当している富田詩生とも初めて会いましたね。
『オーシャン引越センター』という芝居でした。4人くらいでやっていた半分コントみたいな芝居でしたね。これもたぶん越が書いたんじゃないかなと思います。夏の間に一ヶ月くらいの海外研修があって、その間に考えて書いた作品でした。
普通の踊り場なのに「サス(※)が欲しいです」って言われて、竹刀の先端にライトを取りつけて私が動いたりしていましたね(笑)。
それが2009年なので、かれこれ8年前の話ですね。
(※サスペンションライト 舞台上から吊るすライトのこと)
『オーシャン引越センター』公演当時、黒子に扮する小澤さん
ー8年前ですか!
小澤 そんな縁があって、黄河砂の公演があれば私が照明を担当して、そこに越君が出演したりするということが続いて。その後例の『八木さん』で初めて彼の作品の照明をやって、そこからヤリナゲと関わるようになりました。
ーなるほど!
小澤 私自身のことで言うと5年かけて大学を出て、そのあと一年間くらいはフリーターをしていました。大学の先輩が新国立劇場の営業部で働いていたので、そこでアルバイトをしたりしていました。
大学が教育系の学科だったので、いつも飲んでる飲み屋で将棋を差している常連さんに教育系の仕事に誘われて、その縁で現在は教育系のベンチャー企業で働いています。親子向けの通信教材を手掛けたりしています。かれこれ三年くらいになりますね。
割と融通も利くので、その間も芝居を手伝ったりもしつつ、といった感じです。
意外とドロドロした作品を
ーありがとうございます!小澤さんがこれまでにヤリナゲで手がけられたそれぞれの作品についての印象や感想についてお聞かせください!『八木さん、ドーナッツをください。』(第1回公演 2012年1月11日-12日 於 国際基督教大学ディッフェンドルファー記念館 西棟多目的ホール)はいかがでしょう?
小澤 『八木さん』はあさき(中村あさき 元(劇)ヤリナゲ劇団員)がインタビューで喋っていたのがすべてという気がしますね。(10本インタビュー 第3章参照)あの時はひたすら楽しかった記憶しかないですね。
その前にミヒャエル・エンデの『モモ』を越君が演出したことがあって、それも私が照明を担当したんですけど、そんな『モモ』をやるような子が意外とドロドロした作品を作るんだな、と思って「あれ、どうしたこいつ?」と(笑)。
ーなるほど(笑)!内容としてはどのような作品だったんですか?
小澤 越の分身みたいな登場人物が入れ替わり立ち代わりいっぱい出て来るんです。「僕の高校時代のガールフレンドの話なんですけど…」みたいなことを言いながら出て来るんですね。それが越自身だって明言はしないですけど、「(相手に対して)こういう扱い方をしてしまったんだけど、それって僕は糞野郎なんでしょうか?」というような、割とドロドロした話だったなと思います。
いろんな役者が入れ替わり立ち代わりひとりのダメな男を演じつつ、自分を振り返るという感じでした。相手役の彼女も入れ替わり立ち代わり変ったり。
花火のシーンがあったり、何気ない日常会話のシーンがあるかと思うと「でも実は好きなのはあなたじゃなくて…」みたいな話も出てきて(笑)。
ーおおお…!
小澤 ありがちな会話の中にも人間関係のドロドロみたいなものがあって。私はおじさんとして見守っていました(笑)。
越自身がすごく悩んでいたというか、「この問題について悩まなければいけないんでしょうか、僕は」というか。そこまで言わないけど「これで僕は批判を受けているけど、どうなんだろう」みたいな問題意識があったのかな、と思います。だから当初の劇団名もヤリニゲになる予定だったんでしょうね。やるだけやって逃げて、っていう。それがここまで続くとは、と。
ーなるほど!
小澤 『パンティー少女ミドリちゃん』(第2回公演 2013年3月17日 於 学芸大学メイプルハウス)は僕は観客として観に行っただけですが、越君の内面的な、個人的な悩みや問題意識が主題だったりしましたね。
あとあの時パンツを脱いでいたのは当時、私がおつきあいしていた方でしたね。
ーそうなんですか!
小澤 まあ別に芝居だし(笑)。
ー実際にパンツを脱いでいたんですか?
小澤 そうですね、何枚か重ねて。
ー何枚か重ねたパンツを脱ぐ…!
小澤 そんな時代があって、大学の外でやりたいという話になって、『緑茶すずしい太郎の冒険』(第3回公演 2014年3月21日-23日 於 荻窪小劇場)ですね。
あの公演で越自身は自信を得たのかもしれないですね。自分を知ってる人以外からも評価を得たというか。王子小劇場の玉山さんからも評価をされて、手ごたえを感じたんじゃないかな、と思います。
『緑茶』(初演)時の小澤さん 作・越寛生
主張しない、煽らない明りを
小澤 私も照明をやりながら、普段パフォーマンスとかミュージカル用のいわゆる「舞台照明です!」みたいな明りを作っていた一方で、ヤリナゲの作品では照明で見せるのではない芝居というか、台本や俳優の演技の面白さを見て欲しいから、ほとんど主張をしない隠れるような照明にしたいなと思いつつ、なるべく感情を煽らないような明りを作ってたように思います。いわゆる青い照明で染めたりとか、サスで「バンバンッ!」って抜いたりとかはしないように(笑)。
地明り(※)だけしっかり作って、その中でも一つ二つ味が出るような明りを心がけていました。
そのころのヤリナゲの作品は場面転換がぬるっとしていたので、役者の「…ということがあったんですけど」、という台詞を言ったときに変わったことが分かるようなさりげない明りを作っていました。
(※舞台全体をまんべんなく照らす照明プランの基準となる明り)
ーやはりヤリナゲ作品向きの明りというのがあるんですね!その次の第4回公演『非在』(2014年6月3日-4日 於 王子小劇場)はいかがでしょう?
小澤 越の芝居には越自身みたいな登場人物がどこかしらに出て来るのですが、『非在』ではみねおくん(H-TOA代表 峰松智弘さん)がすごく越らしいなというイメージでした。割と自叙伝的な話が多いな、と思いながら観ていました。
『非在』は気負っていたではないけど、いわゆる「評価されたい!」という作品だったかもしれないですね。
作品の中に常にある、越らしい葛藤
ーなるほど!
小澤 そして続けて王子小劇場で『スーサイド・イズ・ペインレス』(第5回公演 2015年3月25日-29日 於 王子小劇場)ですね。あれも越の話ですね。「社会人をやりつつ劇団をやっているんだけど…」という話で、たぶんあさき(中村あさきさん 元・(劇))について書いたのかもしれないな、と思いました。「枯れていく貴方をそれでも私は愛する」みたいなサブタイトルがついていた気がするんですけど。
照明委員会であさきを芝居に誘うシーンがありましたね。それで一緒に芝居をやっていくけど、今付き合っている彼女ともどうこうあって、みたいな。「結局演劇をやっている自分というのはどういう存在なんだろう」みたいな問題意識があったり、「演劇をやっていることのすれ違いやモヤモヤを俺は持っているけども、それっておもしろくない?僕笑えるんですけど、笑ったら非難を受けるような気もするし…」というか(笑)。
そういう越らしい葛藤は、ずっと彼の作品の中にありますよね。
「ぼくはこう思ってるんですけど、みんなはどうなんでしょう?」であるとか、「ここに疑問があるんですけど、この疑問って共通のものなのか?」とか。そこに常に彼の興味があるんじゃないかな、と思います。
あの時の照明は楽しかったなぁ。すごく好きなシーンが一個あって。
ーどんなシーンだったんですか?
小澤 ヤリナゲではなるべく目立たない明りを、とは言いつつもでっかい野球場のスタンドにいるシーンで、舞台の奥の方にスタンドライトを3,4台吊って照らして、最後のシーンで、目つぶしのように煽ってみたんです。これはちょっとうまくいったかな、と個人的にはそんな手ごたえを感じましたね。
私も王子小劇場でやるのが二回目で、外のそれなりの劇場でも照明をやらせてもらう機会を頂いていて。その頃ちょうど教育の仕事を始めたんです。越もまだ高校の非常勤講師をしてましたね。
『スーサイド』時の小澤さん 作・越寛生
ー第6回公演 『2 0 6』(2015年8月12日-16日 於 王子小劇場)はいかがでしょう?
小澤 『2 0 6』には舞台監督として携わりました。うちの冷蔵庫を持ち出して小道具にしました(笑)。
ーそうなんですか!
小澤 越君が舞台は「家」にしたいんですって言っていて、アニメの『四畳半神話体系』のオープニングみたいな感じにアパートの間取りを目に見えるようにしたいという話だったので、「じゃあロープを引く?」って言ってロープを使ったりしました。ジャグリングだと人を集めた後に「ここまでは近寄って大丈夫です」といってロープを引くのを見ていて、そこから着想を得ました。「ロープで部屋の間取りを作ったら?」って。
本番では浅見さんが綺麗にロープを引いてくれました。あの時は久々に舞台監督をやって楽しかったです。
ー小澤さんのジャグリングの経験から着想を得た演出が採用されていたんですね!
小澤 この頃から浅見さんだったり國吉だったりっていう新しい役者さんが増えてきて「いい血が入ってきたな」、という時代でした。
私自身の事で言うと教育系の仕事でやっと身が立つようになってきた時期で、ヤリナゲ自体も王子小劇場で高く評価されるようになって、これからどんどん大きくなっていってほしいなと思う一方で、「自分はいつまでヤリナゲに関わっていけるんだろうな」と考え始めた時期でもありました。毎回「今回が最後かな」とかこぼしながらやっていました。
越ともほとんどミーティングもしなかったです。付き合いが長かった分だいぶ任されていたというか。
反応がすごく素敵
ーそうしてスタッフとして長く付き合ってこられた小澤さんからご覧になった時の越さんの魅力はどんなところでしょうか?
小澤 うまくいった時の越の反応がすごく素敵なんですよね。「わあ、いいですね、それ!!」って(笑)。たぶんスタッフをやっている方みんなそうなんだと思うんですけど、反応が素直なので越の喜んでいる顔が見たいというのがいつも大きなモチベーションでした。「あ、喜んだ!」って(笑)。
作品を作っている時の越は喜怒哀楽が素直に出て来るから。そういう意味ではすごくやりやすかったですね。うまくできれば機嫌がいいし、うまくできなかったら機嫌が悪いし。
役者さんは辛かっただろうなと思います。越自身言語化が上手い方ではないし。でもだいぶ変わったような気もしますけども。
そうやって喜んでくれる越がモチベーションでした。
ー『緑茶すずしい太郎の冒険』(再演)(第7回公演 2016年3月24日-28日 於 王子小劇場)はいかがでしょう?
小澤 『2 0 6』もそうだったんですけど、そのころほとんど劇場にいられなかったんですよね。仕込みとリハーサルだけ私がやって、あとはオペレーターに任せて去る、といった感じで。自分の中でも照明を本腰を入れてやるのはそろそろ限界かな、と思っていて。越とはツーカーの仲だったのでそれでもやらせてもらっていたんですけど、大学のサークルからの延長といった感じはありましたし、自分自身も照明を本業でやっているわけではなかったので「ちゃんとしたスタッフさんを呼んでやった方がいいよ」という話を打ち上げの時にしたりしていました。
私もすごく楽しいからやりたいし、自分の中でもいいものを作れている気はするけれども、自分の中にあるものしか使っていないからそろそろ種も尽きるだろうとも思っていて。
越自身は私がいることでやりやすさを感じてくれたりもしたのかなと思うんですけど、そこのコミュニケーションコストを取ってでも、ちゃんとしたスタッフさんとやってほしいとうっすら思っていました。
ーなるほど。
『緑茶すずしい太郎の冒険』(再演)舞台写真 三澤さきさん 撮影:村田麻由美
小澤 通し稽古だけを見て照明のプランだけを書いて、ゲネも観ずに後を任せたりとかすることもありました。ヤリナゲには飛び出ていってほしいけど、いろいろあるんだろうな、と。劇団としても足腰がしっかりしていなかったから、私がやるのもいいだろうな、と思っていました。
そのあと『翳りの森』があって、『モニカの話』ですね。
『モニカ』も仕込みをばばっとやって、あとはオペの子に任せて。あの時は越と本番前に一回もミーティングしなかったですね。
通し稽古を見に行ったら教室の芝居で場面も転換しなくてワンシーンしかなかったので「これ蛍光灯でいこう!」って言って、顔だけ明るく見えるようにして。私は蛍光灯が消える時にパチパチパチって消える感じとか、点くときにぼわっと点く感じをやりたくて。
実際そうやってみたはいいけど、「蛍光灯が目に入って眩しい」とか「なんかやだ」とか色々あって(笑)。一応予備で蛍光灯を使わないパターンの普通の明りも作っておいて、越君に「どっちがいい?」って聞いたら「蛍光灯はちょっとあれですね…」って言ってて、そうするとオペの子は明暗転するだけだぞ、みたいな(笑)。
私も、蛍光灯はどうしてもやりたかったので、最終的には、蛍光灯の時は蛍光灯と前明りを一緒に点けていて、前明りを蛍光灯が消えるかのように抜く、みたいにオペの技術で乗り越えてもらいました。
ーなるほど!
『モニカの話』舞台写真 中村あさき 撮影:細谷修三
小澤 でもそれが私の限界だったのかな、と思います。裏方としてもそのころは車を出したりしていたんですけど。
次アゴラ劇場ですもんね。次朝日一真さんというベテランの方が照明で入られるんですよね。スタッフが決まった時に越が「次朝日さんという方に照明をやってもらうことになりました」っていう連絡をくれたんです。その時に「たぶん私は卒業するんだろうな」と思いました。
私自身も越にそう言っていたし、私がアマチュアとして出来る範囲で照明を作るのではなく、ヤリナゲはもっと伸びしろがあるので、しっかりした人とやっていってほしいという気はしていて。
そういう話をしながら、この会話もいつかは芝居になるんだろうな、と思ったりしながら(笑)。
ー越さんだったら(笑)。
小澤 私がこう話したことすらもいつか作品になったりするのかな、って思ったりしながら、感慨深くお話しさせて貰っています。
リアルな人の動き、鼓動が自分のリアルにフィードバックされる
ーありがとうございます!照明を担当されてきた小澤さんからご覧になった時のヤリナゲ作品の特徴などありますでしょうか?
小澤 そうですね、劇団紹介にもあるけど「その笑いは、あなたに返ってくる」っていうあの一言はまさにそうだなと思います。観客席で「こういう奴いるよな」とか「うわあ、やだなこういうやつ」って笑っていたのがいつの間にか自分自身に当てはまって、怖い瞬間があったり。
私も見ていてすごく笑うんです、越も稽古場でめっちゃ笑ってるんですけど(笑)。「こんなに笑うんだ!」って、スタッフとしても結構ニヤニヤしながら、笑いながら観させてもらって。「こういう瞬間っておもしろいな」というシーンがたくさんあって、それが一つの作品の中でつながった時に、あたかも自分自身を見ているような気がする。そういう作品ですね。
エンタメじゃないけれどもリアルな人の動きとか鼓動を楽しめますね。そうして楽しむんだけど、それが自分のリアルにフィードバックされるような感覚もあって。
観終わってすっきりするかというとそんなこともないけど、すっごい笑ったのに観終わった後すごく考えたりしますね。そんな作品かな、と。
小澤 あと越には私の前の職場で演劇のワークショップをやってもらったこともあって。
ーそうなんですか!
小澤 普段は政治や環境問題なんかのテーマを一つ取り上げてディスカッションベースで中高生と話していく授業なんですけど、中高生に演劇に触れてほしいなと思って越を呼んで。いわゆる演劇のエチュードみたいなことをレクチャーしたり、「演劇を学ぶ意義、演劇を学べること」とかも話してもらったりしながら。
あれはやってもらってよかったです。二教室をwebカメラで繋げながら授業をしたりして。
子どもたちもすごい刺激を受けていましたね。教室が三鷹だったんですけど、ちょうどそのころままごとの『わが星』が三鷹の星のホールで再演されていて、そのチラシを配ったら何人か観に行ってくれて。それをきっかけに演劇を観に通うようになった子もいたりして、やってよかったなと思いました。
ーほんとに子どもたちが劇場に通うきっかけになったんですね!
小澤 あれはすごく素敵な経験だったし、そこに参加した人も楽しんでくれたように思います。
越さん演劇WS資料
越さん演劇WS資料2
ーここまでにお話頂いたことの他に、何か小澤さんのみぞ知るとっておきの越さん情報などありますでしょうか?
小澤 越のTwitterを遡って見てもらうと、『モニカの話』の前くらいまでは出演してる役者さんやスタッフさんの似顔絵を描いてアップしてるんです。
ー画伯なんですね!
小澤 あれすごく味があっていいんです。あれをこっそりいつも楽しみにしていて。私の変遷も見られます(笑)。小屋入り中の顔を描くから大体無精ひげが生えてるんですけど(笑)。
『2 0 6』時の小澤さん 作・越寛生
『緑茶』(再演)時の小澤さん 作・越寛生
小澤 各公演ごとに関わった当日のスタッフさんとかも含めて全部描いてたんです。それを描かなくなったというのは一つ彼の中の変化というか、ほんとに創作に集中するようになったのかな、とも思います。後の公演になるほど「描かなきゃ!」って追われるように描いていたので。「描かなきゃ!」ってなってしまったらもう描かなくていいとも思いますよね(笑)。昔は描きたくて描いていたんだろうし。
越がいつも持ってるスケッチブックに描くんですよ。あのスケッチブックはいいね!
ーいつも持っているスケッチブックですか!
小澤 越らしい、すべてがあそこに入っている感じがして。でもあれは役者とか制作さん泣かせなんです。ゴリゴリ書いてるし、稽古中は役者さんはあの音が気になるだろうし、前は本番中のメモもあれで取ってて制作さんからも「越さん本番中うるさいから」って言われたり(笑)。
ー小澤さん自身はこれからも照明は手掛けられることはありますか?
小澤 自分でやるのは年に一回、ジャグリングサークルの頃のつながりで浅草の大道芸フェスティバルをやったりするくらいですかね。もうたぶん大きいところの照明はやらないだろうと思います。「この作品、この人の作っているものをやっていきたい」というのは越の作品ですけど、自分が出来ることはし尽したかな、と思います。もっと自分を高められたらよかったんですけど、そういう意味では道は別に敷かれていてたのかなと思います。
不真面目なんだけど、きっと真摯
ーありがとうございます!さてここで、おもむろに『預言者Q太郎の一生』がどんな作品になるか預言して頂けますか?
小澤 私もどんな話なのか全然聞いていないんですけど、一年くらい前に「『預言者Q太郎の一生』っていうのがやりたいんです」ってタイトルだけ聞いていて、「なんじゃそりゃ?」と思いました(笑)。もしやと思って、「遠藤周作の『キリストの一生』みたいなこと?」って聞いたら「そうなんです、キリスト教の話にしたいんです」って言っていて。
私自身もクリスチャンなので、「イエスの生誕の時の三賢人の話を取り上げるんだったらこういうの聞いたら?」といって牧師さんのお説教とかを配信しているサイトをお勧めしたりしました。なのでどんなものになるのか楽しみですね。
すごく不真面目なんでしょうけど、きっと真摯に取り組む作品になるだろうな、と。
役者さんも力のある人が集まってくれているし、フライヤーも瓜生太郎さんですしね。ヤリナゲが新時代に突入する一歩になるんだろうと思います。
そこに自分が居合わせられない、中にいられないのは寂しい気もしますけど、これからも大きく羽ばたいてほしいなと思います。
まあ車ぐらいならいつでも回すよって(笑)。
日常のもやもやを、そのまま描く
ーありがとうございます!まだヤリナゲを観たことがない人、名前を聞いたことはあるけれどご覧になったことがないという人や、あるいはヤリナゲをまったく知らない人に一言でおすすめするとすれば、どのようにご紹介されますか?
小澤 そうですね。演劇をすでによく観てらっしゃる方に向けてはとにかく一度観に来てほしい劇団だな、と思います。
これまでまだ演劇に触れたことがない方に向けては、どう説明したらいいんだろう…。
普段自分達がやっていることをそのまま舞台上に置いて、それがおもしろいという作品だと思います。現代口語演劇というか。
たとえばずっと演劇の世界にいると、いわゆる商業演劇と小劇場演劇の違いって何となく分かるようになるんですよね。でもそれを演劇を知らない人から「普段どんなお芝居やってるの?」って訊かれたときに説明しようとするんだけど「あ、これたぶんうまく伝わってないな」って思ったりする、まさにそのもやもやをそのまま描いているような作品かな、と。
いわゆる「おお、ロミオ!」とか急に歌いだしたりする感じの芝居ではないけれども、隣の席のカップルの会話がおもしろいと思ってくすりときた経験がある人は、一回観に来て欲しいですね。日常の中に起こるちょっとおもしろいことの、その何がおもしろいんだろうな、というのをすごく分析した作品なのかもしれません。(※)
(※小澤さん後日註(7/19) 実際に舞台を見たあとの感想でいうと、どちらかというと、越が日常の違和感に感じた「オモシロ」よりも「切実さ」にフォーカスされてきたんだと思います。それを、いわゆる「演劇的」なオモシロで優しくつつんだ感じでした。どっちにしろ、面白い!)
ーありがとうございました!
(2017/6/26 聞き手:松本一歩)
小澤健雄さん情報
親子向け探究教育tanQfamily http://www.tanqfamily.com/
(劇)ヤリナゲ第10回公演
『預言者Q太郎の一生』
2017年7月14日(金)〜23日(日)
こまばアゴラ劇場
詳細はこちらから。