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ー記者マツモト、槍を投げる! ~10本インタビュー 第7章~

(劇)ヤリナゲ インタビュー

ー記者マツモト、槍を投げる! ~10本インタビュー 第7章~

10本インタビュー第7章は、峰松智弘氏(H-TOA代表)です。

創作団体H-TOA代表。1991年兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学卒業後、創作団体H-TOAを結成する。鑑賞者の行動や思考の状態に着目し作品を発表する。創作と発表において参加者の対話を重要視している。中華料理屋さんの店主の話を塗り絵をしながら鑑賞する「ワンさんの一生とその一部」や本を読みメモを取りながら、フィールドワークの要素も併せ持つ「これはペンです」などを発表。TPAMやKYOTO EXPERIMENTなどの芸術祭に参加している。

俳優として第七劇場、sons wo:、(劇)ヤリナゲなどに出演し各地を回る。

―峰松さんの自己紹介とヤリナゲ、越さんとの出会い、関係、間柄について伺えますでしょうか。

峰松 峰松智弘と言います。H-TOA(はとあ)という団体の代表をやっています。

ビールが好きです。来週(6月第三週)からドイツへ行ってビールをたくさん飲んできます。ドイツで開催されるドクメンタ(※)という大きなアートフェスティバルへ行きます。

(※ドイツ中部の都市カッセルで5年に一度開催される、世界最大規模の現代アートの祭典。)

ーいいですね!

(ドイツでの峰松さんの様子)

峰松 学生の時に百日紅御一行様という団体をやっていて、卒業してしばらくして現在のH-TOAという団体をやっています。これまでに公演形式で3回、滞在制作で一作品発表しています。現在は台湾に向けて新作に取り組んでいる段階です。

一応作・演出・俳優です。自分の団体だと特に役者をやるのがちょっと恥ずかしいので、あんまりガツガツはやりません(笑)。

ーなるほど!

出会いは『ゴド―を待ちながら』

峰松 僕が大学2年生の時に演劇サークルに所属していて先輩の団体に出た時ですね。『ゴドーを待ちながら』の一幕だけを上演することがあって、そこで共演することになって初めて越さんと出会いました。

僕は少年役で、越さんがポッツォ役でした。

ー越さんがポッツォですか!

峰松 越さんとは同い年なんですけど越さんの方が学年は一個上なので、その時越さんは大学3年でした。でもその時はそもそも少年とポッツォは一緒のシーンもなくて、稽古でもあまり一緒にならなかったのでそこまで交流はなかったです。

それ以降はしばらく接点がなかったんですけど、『緑茶すずしい太郎の冒険』(第3回公演2014年3月21日-23日 於 荻窪小劇場)で緑茶すずしい太郎役で出演のオファーを貰って、その時に久しぶりに会った、という感じです。

それが僕が大学3年生の時ですね。

ー越さんの方からオファーがあったんですか?

峰松 そうですね。『ゴドー』で共演したのが2年生の始まりだったので、1年半くらいしてオファーを貰いました。その間は大学も違うので、なかなか接点もなかった気がします。

ー大学の違う越さんはどういういきさつで『ゴドー』の現場にいたんですか?

峰松 たぶん主宰の人が集めていて、その人の同期に藤原未歩さん(俳優 アムリタ)がいるので、たぶんそこを通じて知ったんだと思います。藤原さんもヤリナゲに出演していましたし、それで交流はあったと思います。

峰松 それでいきなり越さんから連絡が来て、新宿で待ち合わせをして、いまのところ決まっているプロットを貰って、おしゃべりをしましたね。

その時僕の役はまだ緑茶すずしい太郎ではなかったです。

―その時の印象はいかがでしたか?

峰松 僕はその前に越さんの『パンティー少女ミドリちゃん』(第2回公演 2013年3月17日 於 学芸大学メイプルハウス)を観に行っていて、それが面白かったので、いいかな、と(笑)。

―『パンティー』はどんな作品だったんですか?

峰松 戦争の話で、越さんと中谷森さんという女性の二人芝居で、越さんがビデオカメラで女の人のパンツを映していました。気持ち悪い越さんでした。そのようなお芝居でした。

ー(笑)。

峰松 結構そのブラックコメディというか、越さんのお芝居のテイストが僕は好きだったので、いいと思いました。

大きなテーマとしては戦争の話でしたね。『非在』(第4回公演 2014年6月3日-4日 於 王子小劇場)の後まで結構戦争をテーマにした作品がちょくちょくあったように思います。

だから戦争というテーマがひとつ越さんの中で気になるところなんだな、と思いました。

―『緑茶』のオファーを受けたときの印象はいかがでしたか?

峰松 あんまり覚えてないですね…(笑)。でもカフェでわりかし楽しくおしゃべりして、別れた気がします。その作品がどうだ、こうだという話はあまりせずに、普通におしゃべりしました。

-『緑茶』初演の時の事を詳しく教えて下さい。

峰松 脚本が最初から大まかには出来ていたんですけど断片的なストーリーしかなくて、稽古しながらそれぞれのストーリーを膨らませてつなげていくという感じでした。

しばらくヤリナゲに関わっていないので今の越さんの書き方は分からないですけど、当時はそういう感じでした。

ーなるほど!

稽古場で自由でいられた

峰松 これは言っていいのか分からないんですけど、僕が脚本の内容にめっちゃ口出ししたんです。「もうちょっと緑茶すずしい太郎の話を出した方がいい」と言って、シーンを増やしてもらいました(笑)。自分が出たかっただけかもしれないです。

でも『緑茶』は緑茶すずしい太郎が主人公ではなくて、緑茶すずしい太郎をおなかに宿したお母さん(ウーロン茶熱い花子)の話なんですよね。

(『緑茶』舞台写真より 峰松さん、西村寛子さん(ウーロン茶熱い花子役))

峰松 『緑茶』の一つの大きなテーマである中絶とか、おなかの赤ちゃんが障害をもっていたらどうするか、ということについて稽古場で議論することも多かったです。

脚本にも色々意見を出しつつ、僕自身も結構稽古場で自由でらいれたというのが、個人的にはとても良かったです。

ー俳優としてだけでなく、作品について積極的に参加されていたんですね。

峰松 僕はそれまで基本的に上の世代の人達とばかりお芝居をやってきていたので、同世代の演出の人とやるのは初めてだったんです。

越さんも、あんな感じじゃないですか(笑)。だからあんまりこう、固い感じの稽古場ではなかったので、自由にやらせてもらえました。

越さん自身「こうやるぞ!」みたいなのがあんまりなかったので、それはそれで過ごしやすい稽古場でしたね。

ーちなみに峰松さんが演劇を始められたのはいつ頃だったんですか?

峰松 本格的に始めたのは大学1年生の終わり頃からですね。割と遅くて。

一応春に演劇サークルに入ってはいたんですけど、夏休みと前後してアメリカに柔道を教えに行くために留学していたので役者はしていなかったんです。

たまたまアメリカで柔道を教える人を募集していて、3カ月フロリダに行っていました。

ーそうなんですか!

峰松 だからヤリナゲに関わったのも演劇を始めて二年ちょっとくらいの時でしたね。経験が浅いながら、大学生の時はsons wo:(代表 カゲヤマ気象台氏)や250㎞圏内(演出 小嶋一郎氏)、集団歩行訓練(代表 谷竜一氏)といった団体に出させてもらっていて、フェスティバル・トーキョーの公募プログラムで参加しているような刺激的な団体に参加できたのは良かったです。

そうした理論から演劇を練っている団体に学生の頃から出させてもらっていたというのは、今自分がやっているH-TOAという団体の糧になっていると思います。

そういう経験もありつつ、いわゆるスタンダードな会話劇というのは僕自身ヤリナゲが初めてでした。

「うまくいかなかった」とい言える稽古場

―『緑茶』(初演)の稽古から本番にかけて、印象的だったことなどありますでしょうか。

峰松 役者をやっていてうまくいかなかったときに、「うまくいかなかったです」って言えるのが良かったです。

越さんの作品でシーンをやった時に、越さんは「10回やったら10回面白くなる」とは思ってないと思うんです。だから僕たち役者がやってみて、稽古で出てきたものに対しては受け入れてくれるというか。

でもそれが100回やったら限りなく99回うまくいくような工夫を頑張ってみんなで探すような稽古でした。

僕はそう感じていたので、役者としてはすごいやりやすくて、「面白くさせなきゃ」という気負いなくやれたのがよかったな、と思いますね。座組もとても楽しかったです。

越さんのエッセンスを出す作品に

-その後出演された『非在』はいかがでしたか?

峰松 王子小劇場トライアルに参加した作品で40分位の上演で、僕のシーンは1シーンだったんです。割と稽古場でもみんなの稽古を観ている時間が多かったりして。

そもそも『緑茶』(初演)で王子の玉山さん(玉山悟氏・元王子小劇場芸術監督)が観てくれていて、それで王子小劇場のトライアルに誘ってもらったんですよね。

だから『非在』に関しては僕あんまり脚本とかについても口出ししない方がいいと思ったんですよ。

王子で初めてヤリナゲをみるお客さんも多いだろうし、「どういう団体なんだ?」と思って観に来るだろうから、越さんのエッセンスというか得意なところ、特徴を出す作品にしたらいいな、と思って。

どっちかというと座組、チームで良い作品をつくるというよりは、越さんの特徴がよく出ている作品の要素を見せる場だと思ったんです。

そういう意味で『緑茶』の時と比べるとあまり脚本には口を出しませんでした。自分のシーンをより面白く出来たらいいな、と思っていました。

ー『非在』という作品は多くの人に越さんという作家を知ってもらう機会でもあったわけですね。

峰松 そういう意味では『緑茶』より以前の、初期のヤリナゲの作品の感じに近づいたんじゃないかな、と思います。初期の作品は実際には観ていないので、ほんとにイメージですけど。

―『非在』では峰松さんはどんな役だったんですか?

峰松 『非在』では主人公の幼馴染の子の役で、その子と昔付き合ってたかちょっと好きだったかっていう関係の子で。これから戦争に行って死ぬかもしれないから、最後にセックスさせてくれっていう役でした。

オファーされた時点でその役だったので、『緑茶』の時のように自分の出番を増やして、役を広げるとかいうことではないな、と思いました(笑)。

ーなるほど(笑)!

峰松 あと僕が観ていなかったり出演していない作品でも、結構ヤリナゲの稽古場には遊びに行って、稽古を見たりしています。

ーそういう交流があるんですね!峰松さんご自身は、よく他の団体の稽古場に遊びに行ったりされるんですか?

峰松 そうですね、他の団体の稽古場にも遊びに行ったりはするんですけど、ヤリナゲが一番多いと思います。やはり役者として関わってきた団体なので、一番行きやすいですね。

ーなるほど!『スーサイド』はいかがでしたか?

峰松 『スーサイド』は僕も出演していましたけど、越さんが悩んでいましたね。いつになく大変そうでした。

『スーサイド』は劇団員が出演していなくて、劇団員以外もみんなヤリナゲに関わるのがほぼ初めてだったんです。僕だけ三回目の出演で、他の出演者の方たちから「ヤリナゲっていつもこんな感じなんですか?」って僕に聞かれたりしました。

いつになくみんな悩んでいた作品でしたね、あれは。

―それは作品としてまだ伸びしろが残されていたというようなことでしょうか?

峰松 たぶんそうだと思います。作品自体が断片的なシーンを5つ6つくらい集めたもので、そこに一貫して主人公の男の人が出て来るというものでした。

越さん自身はやりたいシーンを集めて、そこにどうテーマや一貫性を与えられるか、というやり方をしていたと思うんですけど、ちょっとそれがうまくいかなかったのかな。

おもしろかったことはおもしろかったんですけど、越さんのやり方としてぐんと一歩進めた作品ではなかったのかも知れません。

その後演出のやり方とかを色々試行錯誤して頑張ってステップアップしていったんだと思います。

―『2 0 6』(第6回公演 2015年8月12日-16日 於 王子小劇場)はいかがでしたか?

峰松 基本的に一人の主人公がお客さんに語りかけるイメージじゃないですか、ヤリナゲって。でも『2 0 6』ではそのイメージがなくって、なんでないのかな、と今考えたんですけど。

ーはい。

峰松 誰かの一人の話じゃなかったんだと今思いました。

なんでかというとチェーホフの『三人姉妹』を下敷きにしていて、『三人姉妹』がそういう作品だから。こういうと実も蓋もないですけど(笑)。

世の中とか自分よりもっと遠いところで起こっている出来事に対して、誰か一人がでなはくそこにいるみんながどうするのか、という作品でした。

そう思うと、ヤリナゲの中では毛色がちょっと違う作品ですね。

―『翳りの森』(第8回公演 2016年8月30日-9月4日 於 十色庵)はいかがでしょう。

峰松 本番は観られていないんですけど、稽古場で通しを観ました。『翳り』や『フランドン農学校の豚』(番外公演 2014年10月25日-26日 於 toiroan 十色庵)というのは、越さんのものではない脚本を使用するということもあって、越さんの演出が鍛えられる公演なんだと思って観ていました。越さんの演出力勝負、という企画ですよね。

演技体、演技テイストの変化

―『モニカの話』(第9回公演 2017年1月18日-1月22日 於 STスポット)はいかがでしょう。

峰松 結構シンプルな感想になっちゃいますけど、いわゆる俳優の演技体、演技テイストみたいなものがそれまでのヤリナゲからだんだん変わって来たなと思いました。それをいいという人も悪いという人もいると思うんですけど。

『モニカ』は議論するためのテーマがない作品、っていうイメージでした。

大学の部室で起こる恐い話、「あの部屋で怖いことが起こる」みたいな話ですよね。

それまでの作品にあったような出生前診断とか戦争といった、議論するような大きなテーマがなかったなって、思います。まあ今までとちょっと違うなと。

面白いものを見つけるのがうまい

―作家としての越さんについての印象についてお聞かせください。

峰松 越さんは僕の作品も観に来てくれていて。ヤリナゲとテイストは全く逆という位かなり違うものなんですけど、毎回楽しんで帰ってくれています(笑)。

越さんなりに面白いものを見つけるのがうまいというか、そういう感覚に敏感な人ですよね。きっと何が起こっても面白いと思うんですけど(笑)。

役者も作品に積極的に関わり合えるという確信

―峰松さんが越さんやヤリナゲの作品から影響を受けている部分はあったりしますか?

峰松 たとえば『緑茶』の時に僕も役者として脚本について意見を出したりしていた経験があったことで、役者も演出や脚本に積極的に関わりながら作品を作っていけるという確信を持てたと思います。

自分のH-TOAという団体は「集団創作」というのをすごい重視していて、全員が作品に対して同じ距離感で向き合うということを重視しているんです。そういう部分で、 自分がヤリナゲで役者をやらせてもらっていた経験から影響を受けていると思います。

ー峰松さんの今後の活動のご予定について教えてください。

今は8月末に台湾のフェスティバルで発表する作品について話し合っています。

H-TOAではこれまでに三作品やっていて、現代思想の考えとか、自分の作品の相性がいいなと思っていて。そのあたりから作品を作っていくのかな、という感じです。

お客さんに観られないとどんな作品になるのか分からなくて、自分の作品について自分が一番よくわからないかもしれないです。

演劇は観ている人と関われるというのが最大の特徴なので、それをどう使おうかな、と考えたりしています。

―ありがとうございます!ここでおもむろに、『預言者Q太郎の一生』がどんなお話になるのか預言して頂けますでしょうか。

峰松 チラシの紹介文(※)を見る限り、いつもよりファンタジックなお話なのかな、と思います。抽象性の高い話なのかな、って思ったんですけど。

でもやっぱりそう見せかけつつ、自分の周りの事や自分たちのことを描く作品なのかな、と思います。

(※「千葉県Aビコ市の藤原・B・マリアに待望の赤ちゃんが誕生! 突如現れた東葛の三賢人の言うことには、この子は今世紀最大のよいこ・Q太郎であるという……すくすくと育つQ太郎を、弟子たちは伝記に記すことができるのか?」

きっと自分の事だけにしておけない

―ヤリナゲを知らない人、まだ観たことがない人におすすめするとすれば、どのようにご紹介されますか?

峰松 むずかしいですね…。

「二人で観に行ったらいいんじゃない?」って思います。観た後にちょっとおしゃべりできるような作品かなぁ、と思います。

ひとつひとつの話題は自分のことや自分の周りの人の話だったりするけど、きっと自分の事だけにはしておけないと思います。

一言で言ったら「二人で観に行ったら?」って。きっと帰り道に観た作品についておしゃべりしたくなります。

ーありがとうございました!!

(2017/6/8 新宿にて 聞き手:松本一歩)

峰松智弘さん情報

Taipei Fringe Festival参加

H-TOA「Hi,i(lan)d」

8/26(土)15:00 | Woolloomooloo Xhibit

8/30(水)8/31(木)15:00 | URS127玩藝工場

H-TOA公式サイト http://www.h-t-o-a.com/

(劇)ヤリナゲ第10回公演

『預言者Q太郎の一生』

2017年7月14日(金)〜23日(日)

こまばアゴラ劇場

詳細はこちらから。


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