「206」日直日誌#10 「越さんに話を聞く。前編」
こんにちは。「206」日直の中村です。いよいよ公演まであと少しとなりました。今回は、(劇)ヤリナゲの主宰である越寛生さんにお話を聞きました。「206」を描くことになったきっかけから、越さん自身が持つ問題意識の話など、様々なことを伺いました。
(越寛生さん。腕がふるふるしていたので、ぶれています)
——今回、『206』を書くことになったきっかけを教えてください。
越寛生さん(以下、越):自分が大学生の時に、好きだった人が女性三人でルームシェアしていて、その人に会いに部屋に行っていたんだけど、好きだった人はよくいなくなっちゃって、しょうがないから、ずっとじっとしていたことがあって、それが面白かったからです。それで三人の女の人がいて、そこに男の人が一人来るお話がやりたいなと思っていました。
——今回の『206』は、チェーホフの『三人姉妹』を基にしていますが、前回公演『スーサイド・イズ・ペインレス』(以下、『スーサイド』)も、チェーホフの『かもめ』をモチーフにしています。今回は、なぜ『三人姉妹』をモチーフに選ばれたのでしょうか?
越:まず、チェーホフは好きなんです。それと、今回はさっき言ったみたいに「三人の女性が一緒に住んでいる話」が良くて、それで、『三人姉妹』を使いました。チェーホフつながりを目指した、ということではないです。
けれど、書いていくうちに、『三人姉妹』だと、次女が長女三女と別に住んでいるというのは実は大事で、三人一緒に住んでいると、全然違う話になるな、と気づきました。構図や起きることは結構使いましたが、チェーホフ的なエッセンスを使ったかというと、むしろ、前回の『スーサイド・イズ・ペインレス』の方が汲み取っていて、今回はそうでもないと思います。
——ヤリナゲの劇はいつも「問題」を提示している印象ですが、越さんが今回『206』に持ち込んだ問題意識はどのようなものなのでしょうか。
越:一番思っていることは、「本当のことをいっていいかどうか」「言行がちゃんと一致しているかどうか」みたいなことです。すごく気になります。
例えば、お家でテレビを見てて、お母さんが嫌なニュースを見ながら、「嫌だねー」みたいなことを言うじゃないですか。戦争が起きそうであるみたいなことがあると、「いやだねー何やってんだこいつら」みたいなことを言うのですが、僕はそれを見ながら、いや、言うだけじゃん、って思っていました。言うだけだと、行動していないから、よくないんじゃないかと思う。そういう意識は昔からありました。
それで、言行を一致させようと思って、デモにいってみたけれど、あんまり自分のすることと言うことが一致はしなかった。なんかすごく怖いし。そういう風に思ったから、なんとかならんかなぁ、でも言行は一致させたいなぁと思って、書き始めました。
今回、宣伝に「ナショナリズムとSF」って書いてあるけれど、最初は「ヘイトとSF」という言葉を使おうと思ってたんです。僕は、割と元からヘイトには関心があったのだけれど、「ヘイト」という言葉は少し狭い定義なので、一回外付け的にナショナリズムの問題を語ろうとしたけれど、書き終えてみて、結局はヘイトみたいなところに戻ってきた感覚はあります。同じように『三人姉妹』みたいな要素を入れるぞ、って最初は考えていたけれど、最終的には、最も自分が関心のあることをちゃんと書けたなぁ、と思います。
チケットは販売中です。平日は完売の日もあり、土日はまだ余裕があります。詳しくは、次回公演のページから、ご確認ください。
後編では、これまでのインタビューの内容を踏まえつつ、「206」で新たに挑戦した試みや、演出家としての「206」について伺いました。次回もぜひお読みください。