「206」日直日誌#9 「良太さんとあさきさんに話を聞く。後編」
こんにちは。「206」日直の中村です。
(劇)ヤリナゲのメンバーである川村良太さんと中村あさきさんにお話を聞く、その後編です。もし、まだ前編を読まれていない方はぜひ、前編からお読みください。今回は、ヤリナゲのこれまでを知るお二人から見て「206」はどのような作品なのかを伺いました。
また、今回は日直の中村と、中村あさきさんの苗字が同じなので、表記を名前にて統一しています。
(川村良太さんです。中村あさきさんの写真(あんぱんを食べている)を見た後に、「じゃあ・・・」と言って、これを手に取りました。ふしぎだ)
——ヤリナゲは出生前診断や食肉など、答えの出しにくい問題を提示する作品が多いですが、今回「206」は、テーマとどのように向き合った作品でしょうか。
川村良太さん(以下、良太):今までも社会問題を扱っていましたが、少し遠巻きというか、それこそ食肉のような自分から距離を置けるものが題材でした。それが『206』においては、いまの時代性みたいなものとリンクさせてる。戦争やデモ、差別だったり、抽象的なそれらでなく、今自分の周りで起こってることとして。これは、越の方から演劇やテーマに歩み寄って書いているんじゃないかな、と思います。今回の物語では、それらの問題が、知らず知らず問題に侵食されていく人たちの様子を通して描かれてます。
中村あさきさん(以下、あさき):ヤリナゲは、提示した問題に対して、「えー、どうなの?」って考えてる様を見せている作品と、「こういう問題があるんだけれど、僕はこう思っていて、どう思います?」みたいな作品があると思います。今回の『206』は、こっしーが「自分、いまこれをいいたい」という感じがします。『206』は作品を通して、越からお客さんにすごく向かっている作品だと思います。伝えたいっていう気持ちが高まっていて、とてもお客さんに開かれた舞台になっている気がします。
——僕は日直として稽古場にいるのですが、良太さん、あさきさん、共に「今回はおもしろい」という手応えを感じる発言をされていますが、その理由をお聞かせください。
あさき:まず、今回は、自分自身の作品への臨み方が違う部分があるというのが大きいです。これまでは言われるがまま、なにも考えずにもやってきたところもありますが、今回は「私も言いたいことあるな」という気持ちがあります。私は個人的に、自分が舞台をやることは、私なりの社会への応答の仕方だな、と思っているんですね。
今回、『206』の企画書に、こっしーがデモに行った時の経験が書いてあって、その時から、割と私は共感していました。
また、役としては、私がいままでやっている役と自分は、全然まるっきり違うことが多くて、その役と共感はないままやっていることが多かったんです。けれど、今回、三人姉妹の三女であるカヤちゃんをやっている時は、当て書きのように似ていることがあったり、私が思っているけれど出していないことも書かれていて、やっていて良い意味でとても新しい感覚の苦しさがあります。
あとは、今回、出てくる人物に、とても細かく、具体的には言えないのだけれど、「躍動感がある」気がします。出てくる人間だったり台本もあるけれど、それ以上に作品を見ているお客さんにとって、「自分に言っているような気になる」感じが強くあると思います。
作品の心臓が脈打つ姿が見えるような劇になっている気がします。
良太:設定がキャッチーですよね、ラクダ星とか。それに台本が読みやすかった。どういうシーンかな、とか、どういうことを言いたいのかな、とか、読みながら意図が入ってきやすかったですね。話として観る人の方を向いていると思います。今までは「越自身が見たいものを突き詰めて、それを人に見せる」ということをやってたけれど、今回は脚本を読み取る俳優や、お客さんの存在をきちんと意識されていて面白いと思います。
あと、これまでの「不自然なことをせず、演技で嘘をつかない」というコンセプトは保ったまま、戦争や政治のことを言わされるようになって、その拡がりを感じます。これまでセリフは日常の喋り言葉だけで構成して、突飛なイメージは小道具などに託す印象だったのですが、今回は言葉に飛躍が見られた。例えばですけど、これまではキャッチーでわかりやすい「戦争」「差別」などのワードを排除していったけれど、今回はそういう、言葉の強さ、みたいなものも取り入れられていると思います。
——『206』は、ヤリナゲの作品の中でどのような位置づけになりそうですか?
良太:「ヤリナゲで出来ること」を、考え出した最初の公演になるかな、と思います。
あさき:これまでとは、演劇的な種類が変わったというか、「何かに踏み入れた」公演になる気がします。
——それでは、最後に今回の公演への意気込みを聞かせてください。
良太:今回も良い額縁になれるように頑張ります。
あさき:でも、今回、良太が演じるサカシタはとてもおもしろい役所だと思います。今回、各人物の後ろにあるものまでしっかり描かれているからじゃないかなと。
良太:(熟考した後に)・・・全部の瞬間にちゃんと生きてたいですね。そう思います。
あさき:私は、俳優としても作品としても、閉じたくない、開いていたいなと思うので、そうなるように頑張ります。
「206」チケット販売中です。いよいよ本番まであと五日となりました。ヤリナゲとして、新たな領域に踏み込んだ作品になります。ぜひお越しください。
次回は、いよいよ、ヤリナゲ主宰の越寛生さんに「206」という作品についてお話を伺います。ぜひお読みください。